日光へ向かう途中、宇都宮の「オトワレストラン」へ。
以前から一度訪れたいと思っていた、日本を代表するグランメゾンの一つです。
オーナーシェフは音羽和紀さん。故郷である宇都宮に根を張り、1981年の「オーベルジュ」開業以来、栃木の生産者や食材と向き合いながら、独自のフランス料理を築いてきました。
現在は、料理長を長男の音羽元さん、マネージャーを次男の音羽創さんが務めています。
今回のディナーは、これまでの食体験の中でも最高峰の一つ。
料理だけではありません。
空間、サービス、ワイン、そしてコース全体の流れ。
すべてが高いレベルでまとまった、満点をつけたいディナーでした。
お店について

オトワレストランがあるのは栃木県宇都宮市。
JR宇都宮駅西口からタクシーで約10分です。
東京から日帰りでも十分に訪れることができる距離ですが、気軽に立ち寄るというより、このレストランそのものを目的地として向かいたい場所です。
オトワレストランが大切にしているのは、その土地にあるものを、その土地で味わうこと。
栃木の食材を使うだけではありません。
生産者との関係を築き、料理を通じて地域の魅力を伝えていく。
音羽和紀シェフが長い時間をかけて作ってきたレストランの考え方です。
地方にある名店。
そんな言葉だけでは少し足りません。
宇都宮という土地に根を張ってきたからこそ生まれたグランメゾンだと感じます。


音羽和紀シェフとオトワ家
音羽和紀シェフは、大学卒業後にドイツ、スイス、フランスで料理を学びました。
ヨーロッパで感じたのが、人々が自分たちの土地や食文化に持つ強い誇りだったそうです。
その経験から故郷・宇都宮でレストランを開くことを決意。
1981年に「オーベルジュ」を開業し、その後、現在のオトワレストランへとつながっていきます。
2024年には黄綬褒章を受章しました。
現在のオトワレストランでは、音羽和紀さんがオーナーシェフを務め、長男の音羽元さんが料理長、次男の音羽創さんがマネージャーとして店を支えています。
父が築いてきたものをそのまま残すのではなく、次の世代がそれぞれの立場から少しずつ更新していく。
家族で続くグランメゾンならではの厚みを感じます。
この日の料理
この日のコースは「メニュー ルレ・エ・シャトー」。
全体を通して感じたのは、クラシックなフランス料理の確かな骨格です。そこに栃木の素材と季節を自然に重ねています。
料理は華やかです。ただ、見せることが先には来ません。温度、香り、食感、ソース。一皿の中でそれぞれの役割がはっきりしています。
コースを通した強弱もよく、最後まで無理なく食べ進めることができました。
アミューズ




赤貝 赤ピーマン

序盤から印象に残った一皿。
赤貝の海の香りに、赤ピーマンの甘みと酸味を合わせています。
軽やかですが、味にはきちんと奥行きがあります。
栃木旬野菜

この店の考え方がよく表れた料理です。
地元の野菜を並べて土地を表現するだけではありません。
ソースやハーブを使い、一つのフランス料理として完成させています。
素材への敬意と料理人の技術。
その両方が見える一皿でした。
オマール海老

火入れが素晴らしい。
身の弾力を残しながら、オマール海老らしい甘みをしっかり感じます。
ソースには濃度がありますが重くありません。
海老の味を覆うのではなく、旨みを一段引き上げています。
蝦夷アワビ

今回、特に記憶に残った料理です。
クラシックなパイ包みの仕立て。
パイの香ばしさ、アワビの食感、厚みのあるソース。
それぞれがきれいに重なります。
技術の高さを感じる料理ですが、難しさを食べ手に感じさせません。
クラシックなフランス料理の良さが詰まった一皿でした。
白甘鯛 クスクス

皮目は香ばしく、身はしっとり。
クスクスとソースを合わせることで、魚料理にも十分な満足感があります。
コース後半に向かうための一皿として、とてもよくできていました。
仔羊 ぶどう山椒

メインは仔羊。
肉の旨みをきちんと残しながら、ぶどう山椒の香りで余韻を軽くしています。
ソースにはしっかりと深みがあります。
じゃがいものピュレも非常になめらか。
魚介から続いてきたコースを、最後にきれいに着地させる料理でした。
ウフアラネージュ

白と淡いピンクが印象的なデザート。
苺やソルベの酸味が入り、長いコースの後でもすっと入ります。
甘さを強く残すのではなく、食後の余韻を整えてくれます。
ミニャルディーズ
最後の小菓子まで手を抜きません。
マカロン、ショコラ、ゼリー、焼き菓子。




器ごとに見せ方も変わります。
単なる食後のお菓子ではなく、ここまで含めて一つのコース。
そんな意識を感じました。
ワイン
ワインも、この日の満足度を大きく引き上げてくれました。
白はプイィ・フュイッセ。
ロゼはバンドール。
赤はジュヴレ・シャンベルタンとモレ・サン・ドニ。
料理の進行に合わせた流れが自然です。
魚介や野菜には白やロゼ。
仔羊ではブルゴーニュの赤を楽しみました。
特に印象的だったのは赤ワインの合わせ方です。
料理に強いワインをぶつけるのではなく、香りや余韻を重ねていく。
ワイン単体を主張させるのではなく、料理と一緒になってコースを作っていました。





空間とサービス
空間にはグランメゾンらしい落ち着きがあります。
東京の高級店で時折感じる張り詰めた空気とは少し違います。
静かですが、堅苦しくない。
テーブルの間にも余裕があり、料理に集中できます。
サービスもとても自然でした。
料理の説明も、ワインの提案も過不足がありません。
特別な場所に来ている感覚はありながら、こちらを緊張させない。
長く続くレストランの経験値を感じました。

素晴らしいディナーでした。
クラシックなフランス料理の技術。
栃木の食材。
器と空間。
サービス。
ワイン。
どれか一つが突出しているのではなく、すべてが高いレベルにあります。
そして、それぞれがバラバラではありません。
一晩の体験としてきれいにつながっています。
音羽和紀シェフが宇都宮で築いてきたものを、音羽元さん、音羽創さんの世代が今につないでいる。
料理を食べると、その積み重ねまで伝わってくるようでした。
東京には素晴らしいフレンチが数多くあります。
それでも、わざわざ宇都宮まで足を延ばす価値がある。
この店でしか味わえない時間がありました。
再訪したいというより、また宇都宮まで食べに行きたい。