長崎旅行の最終日に、島原の「pesceco」を訪問しました。

この日は島原から長崎空港へ戻る予定があり、滞在できたのは約2時間。事前に事情を伝えると、コースの進行を調整してくださり、メインまでいただくことができました。

ただ、最後は飛行機の時間が迫り、デザートをいただく前に退店。

Pescecoは、料理そのものだけでなく、食材の説明や目の前での仕上げまで含めて楽しむ店です。今回の経験からも、訪問するなら3時間半ほど見ておいた方がよいと思います。

お店について

Pescecoは島原市内、海に近い静かな場所にあります。

外観は無機質でミニマル。

店内はカウンター中心で、目の前が厨房です。

料理人との距離が近く、調理の様子まで自然に目に入ります。

印象的なのは、横長の窓から見える海。

店の中で土地を説明しすぎず、窓の向こうに島原の風景がそのままある。

この距離感がとても自然です。

Pescecoが掲げるのは「里浜ガストロノミー」。

島原半島の魚介、野菜、米、素麺などを使いながら、土地の風景や食文化まで料理に落とし込んでいきます。

イタリア料理を出発点にしながら、実際に食べた印象はかなり和に近いものでした。

シェフについて

オーナーシェフは井上稔浩氏。

1986年、長崎県生まれ。大阪の調理師専門学校を卒業後、寿司店などを経て、2008年に父親と居酒屋を開業。2014年に「pesceco」をオープンしました。現在の場所へ移転した後、『ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎 2019 特別版』で一つ星を獲得しています。

井上シェフの料理を理解するうえで欠かせないのが、島原との関係です。

鮮魚店を営んでいた父の影響で、幼い頃から市場に通っていたそうです。18歳で島原を離れ、その後さまざまな土地を旅したことで、改めて故郷の魅力に気づいたと語っています。

現在掲げるテーマが「里浜ガストロノミー」。単に島原の食材を使うという考え方ではありません。海や山、生産者、この土地に残る食文化との関係まで含め、料理として表現していく。

Pescecoの公式サイトにも「この土地に生まれ、育まれた僕たちだからできる表現を」とあります。今回の料理にも、その考え方がよく出ていました。

この日のコース

浜辺の散歩

コースは、浜辺を思わせるプレゼンテーションから始まります。

砂や貝殻の中に小さな一品。最初から「海」がテーマであることが伝わってきます。

雲丹のパイには、紫雲丹、昆布のペースト、サフラン、サン・マルセランチーズ。軽いパイの食感に雲丹の甘み。そこへ昆布の旨味とチーズのコクが重なります。見た目は洋ですが、味の中心には昆布。

この一口が、その後の料理の方向をよく表していました。

波紋のように

虎魚、幸貝、米、雲丹。全体を昆布の泡で包みます。魚介を酸味やオイルでまとめるのではなく、昆布の旨味で一体にする構成。素材それぞれの味は残しながら、最後は一つの味にまとまります。派手さはありません。じわっと残る旨味が印象的でした。

余韻

牡蠣と牡蠣の貝柱。構成はかなりシンプルです。牡蠣に何かを重ねて強く見せるのではなく、そのものの味を前に出しています。濃い旨味がありながら、後味はすっきりしています。

Fish & Ham

生ハム、天然鯛のフリット、川地海苔。大きな生ハムの塊を目の前で見せていただき、その場で薄くスライス。天然鯛のフリットと海苔に合わせます。

生ハムの塩味。鯛の甘み。海苔の香り。三つを重ねると、イタリア料理的な素材を使っているのに、味の着地は和。

生ハムを主役にするというより、塩味とうま味を加える調味料のように使っている印象でした。

がんば

島原では河豚を「がんば」と呼びます。

この日は藁焼き。河豚にクレソンのソース、葱油、干し大根、橙を合わせます。藁の香りや葱油を強くしすぎず、河豚の淡い味を残しているのが印象的でした。橙の酸味も穏やか。

素材の繊細さを崩さず、香りで輪郭をつけています。

ガネ素麺

「ガネ」は蟹。この日は雌の渡り蟹です。

大きな甲羅を見せていただいた後に登場したのが、島原手延べ素麺と合わせた一皿。

ほぐした蟹の身をたっぷりとのせ、その上に内子。内子の濃厚な旨味がありますが、細い素麺が入ることで意外なほど軽く食べられます。

蟹料理として完成しているだけではなく、島原の素麺を組み合わせることで、この土地で食べる意味が出ています。

この日の中でも特に印象に残った一皿でした。

風味

鱧。

黒米と米粉を使い、山椒油、煮干し出汁、新玉葱を合わせています。

鱧は表面に香ばしさをつけながら、中はふっくら。

煮干しの出汁が土台になり、新玉葱の甘みがそれを受け止めます。

最後に山椒の香り。

鱧という和食の食材を使いながら、日本料理そのものではない。

Pescecoらしい再構築です。

九絵

主菜は九絵。

浅利、小海老の塩辛、葱。

海老のジャムには蜂蜜を使っています。

九絵の火入れがとても良い。

身はふっくらとして水分を残し、皮側には香ばしさがあります。

ソースは泡を使った軽い仕立て。

魚に強い味をまとわせるのではなく、浅利や海老の旨味を重ねていきます。

最後まで味の中心は魚。

このコースを象徴する主菜でした。

赤米のパン

途中に供される赤米のパン。

Pescecoでは米が料理の随所に登場します。

パンも単なる添え物ではなく、コースの流れの中に自然に入っていました。

Yummies View

4.0 / 5

島原という土地を料理で表現しようとする姿勢が明確なレストランです。

魚介、米、海藻、素麺。

地元の食材を使うだけではなく、土地の言葉や食文化まで料理に取り込んでいる点はとても面白い。

井上シェフが掲げる「里浜ガストロノミー」も、実際に料理を食べることでよく理解できます。

一方で、料理としては少し要素を重ねすぎているように感じる皿もありました。

素材は良い。

出汁も良い。

香りや発酵の使い方にも工夫があります。

ただ、それらを一皿の中に重ねることで、かえって味が相殺され、素材そのものの良さが見えにくくなることがあります。

島原の魚介には、それだけで十分に力があります。

もう少しシンプルに見せても、Pescecoらしさは失われないのではないかと思いました。

それでも「ガネ素麺」など、この土地でなければ成立しにくい料理には強く惹かれました。

今回は飛行機の時間が迫り、デザートをいただく前に退店。

店側には進行を調整していただきましたが、こちらの時間設定が甘かったです。

Pescecoを訪れるなら、3時間半程度は確保しておくのがおすすめです。

次回は最後まで通して食べて、改めて評価してみたいと思います。