長崎旅行のランチで、雲仙市国見町の「villa del nido(ヴィッラ デル ニード)」へ。

長崎市内から車を走らせて約1時間。市街地を離れ、有明海と田畑が広がる島原半島へ向かいます。

ここまで来ると、レストランを目的地にして出かける感覚に近い。

villa del nidoは、吉田貴文シェフが生まれ育った土地で2015年に開いたレストランです。実家の敷地内に店を構えています。吉田シェフはイタリアでも料理を学び、故郷に戻って独立しました。

The Tabelog Award 2026 Bronze、食べログ イタリアン WEST 百名店 2025にも選ばれています。

この店で印象に残ったのは、料理そのものだけではありません。

島原半島の食材を集め、それをそのまま見せるのではなく、発酵させる。乾燥させる。熟成させる。出汁を取る。

食材の状態を変えることで、素材から別の味を引き出していきます。

奇抜な料理を作るための技法ではない。

土地にある食材を、どうすればもっと深く味わえるのか。

コースを通して、その考え方がぶれませんでした。

お店について

雲仙市国見町。周囲には田畑が広がる静かな場所にあります。

吉田シェフが生まれ育った土地で、実家の敷地内にレストランを開いたのが2015年。島原半島の生産者との関係を広げながら、土地の食材を中心とした料理を作っています。

店内は木を多く使ったミニマルな空間。

自然光が入り、席数も限られています。

料理に集中できる静けさはありますが、緊張感を強いるような雰囲気ではありません。

サービスも説明しすぎることはなく、必要な情報をきちんと伝えるスタイル。

この日は一人で訪れている方もいました。

料理を目的に、この場所まで足を運んでいる客が多いことが伝わってきます。

シェフについて

オーナーシェフは吉田貴文氏。

福岡で料理人として経験を積み、26歳でイタリアへ。ピエモンテで修業した後に九州へ戻り、2015年にvilla del nidoを開きました。

ピエモンテで学んだのは、イタリア料理の技法だけではなかったように感じます。

その土地にあるものを食べ、その土地らしい料理を作る。

villa del nidoでも、島原半島の魚、野菜、羊、素麺などがコースの中心に置かれています。

イタリア料理を長崎の食材で再現するというより、島原という土地から料理を考え、結果として吉田シェフ独自のイタリア料理になっている。

そんな印象を受けました。

JAL機内の動画でvilla del nidoと吉田シェフが紹介されていました。

この日の料理

テーブルに置かれたメニューには「調和」「粘温」「甘&フレーバー」といった言葉だけが並びます。

食材名や調理法はほとんど書かれておらず、料理が運ばれてくるまで、どんな一皿なのかイメージが湧きません。

ただ、実際に食べてみると、料理は決して分かりにくくありません。

発酵や乾燥、熟成といった技法を使いながらも、何を食べているのかは明確です。

抽象的なメニュー名と、皿の上の分かりやすさ。

この対比も、この店の面白さのひとつでした。

ビーツの仕事

スジアラにビーツと魚卵を合わせた一皿。

ビーツは甘さを前に出すのではなく、土っぽさや酸味を含めて魚に寄り添う使い方。

魚卵の塩味が加わることで、スジアラの淡い旨味に輪郭が出ます。

最初の一皿から、この店が単に地元食材を並べるのではなく、素材同士の関係を作っていく料理であることが伝わります。

湧水パン

自家製フォカッチャに、バターと猪のパテ。

フォカッチャは香ばしく、食事の途中でしっかり存在感があります。

猪のパテは野性味を強く出すというより、肉の旨味を感じさせる仕上がり。

パンの一皿にも、この土地の食材を自然に組み込んでいるのが印象的でした。

調和

乾燥させたトマトを、羊から作った醤油で戻したもの。

乾燥によって凝縮されたトマトの甘味と酸味に、羊醤油の旨味が重なります。

そこに海老を合わせることで、動物性の旨味と魚介の甘味が一つにまとまる。

「調和」という抽象的な名前ですが、食べてみると意図は分かりやすい。

この店の発酵と乾燥の考え方が、端的に表れた一皿でした。

大根

干した大根とキジハタ。

そこに、からすみと羊節の旨味を重ねます。

大根は水分を抜くことで食感と味が変わり、魚との対比がはっきりする。

からすみ、羊節と要素は多いのですが、味が散らかりません。

この店の「食材の状態を変える」という考え方が分かりやすく出た一皿でした。

モリ突き海中神経締め

アラをフリットで。

衣は軽く、クミンなどのスパイスがアクセントになります。

スパイスを効かせても、中心にあるのはアラそのものの味。

技法や香りを前に出しすぎない。

素材と料理人の仕事のバランスが良く、この日の中でも特に印象に残りました。

甘&フレーバー

コウイカ、生の玉ねぎ、味噌を合わせたマリネ。

コウイカの甘味に、生玉ねぎの辛味と香り、味噌のコクを重ねています。

甘さだけに寄せず、香りや塩味を加えることで味に奥行きが出ます。

素材の組み合わせ自体はシンプルですが、それぞれの味がはっきり感じられる一皿でした。

素麺

villa del nidoらしさを強く感じた一皿。

南島原の極細の手延べ素麺に、いりこと蟹の旨味を持たせたスープを合わせます。

麺の繊細な食感。

丸みのある出汁。

そこに自家製タバスコの酸味と辛味。

素麺なのですが、一般的な和食の素麺とはかなり違う。

かといって、イタリア料理のパスタとも違います。

島原の食文化を出発点にして、吉田シェフの料理へ持っていった一皿だと思います。

パスタ

トロフィエに幸貝とカリフラワー。

バターの厚みがありながら、幸貝の食感や種の香ばしさが加わり、単調になりません。

コース終盤でも印象が弱くならない。

イタリア料理をバックグラウンドに持つ店であることを、改めて感じる一皿でした。

島原ラム

肉料理は島原ラム。

香りはきれいで、羊特有のクセを強く感じさせません。

あおさやソースとの組み合わせにも、この土地で料理を作る意味が見えます。

外国の食材を持ち込んで地方で料理するのではなく、地元にある食材から一皿を組み立てる。

villa del nidoの方向性が最後まで続きます。

黒米とミルフィーユ

黒米は、もちっとした食感と穀物らしい香りが印象に残ります。

甘味を強く出さず、食事からデザートへ自然につなぐ役割。

続くミルフィーユも、最後だけ華やかな方向へ大きく振ることはありません。

コース全体のトーンを崩さず、そのまま静かに着地する構成でした。

Yummies View

5.0 / 5

この店の強さは、一皿ごとの完成度以上に、コース全体の考え方が揃っていることだと思います。

島原の魚、野菜、羊、素麺。

地元の食材を使うだけではなく、乾燥させる。発酵させる。熟成させる。出汁にする。

食材の状態を変えることで、元の素材とは違う味や食感を引き出していきます。

そのベースには、吉田シェフがイタリアで学んだ料理の技法があります。

ただ、イタリア料理を島原の食材に置き換えているわけではありません。

素麺や羊醤油、羊節など、この土地にあるものを起点に料理を組み立てています。

メニューを見るだけでは、どんな料理が出てくるのかほとんど分かりません。

それでも実際の皿は奇をてらわず、素材の味がきちんと残っています。

技法は複雑でも、食べた印象は分かりやすい。

そこがこの店の面白さでした。

長崎市内から車で約1時間。

決して便利な場所ではありません。

それでも、この店で食べるために島原半島まで足を延ばす価値は十分にあると思います。

季節が変われば、食材も料理も大きく変わるはず。

次は違う季節に再訪してみたい一軒です。