2025年秋、金沢の「respiración(レスピラシオン)」を再訪しました。

前回は夏の魚介や野菜を中心にしたコースでした。

この店の面白さは、季節が変わるとコースの印象も大きく変わることです。始まりの甘海老と最後の能登杉は残し、その間に旬の食材を組み込んでいきます。

今回の主役は、牡蠣、舞茸、シロソイ、鹿、加能蟹。能登をはじめ、能登の晩秋を感じる食材が並びました。

パエリアのようにスペイン料理の輪郭が見える皿もあれば、発酵や抽出、香りを使って食材を再構成した皿もあります。分類するなら、スパニッシュ・イノベーティブ。食べ終えた後に残る印象は、スペインより能登です。

お店について

近江町市場から歩いて数分。金沢市博労町にある町家を改装したレストランです。

店名の「respiración」は、スペイン語で「呼吸」という意味。公式サイトでは、山、海、生産者、料理人の呼吸を合わせて一つの時間をつくると説明されています。

外から見ると、金沢らしい落ち着いた町家。中へ入ると、大きなオープンキッチンを備えた現代的な空間が広がります。

キッチンを囲むように席が配置され、盛り付けや仕上げの様子もよく見えます。厨房が中心にありますが、慌ただしさを客席に感じさせません。

開業後も改装を重ね、古い建物の良さを残しながら、現在のレストランとして使いやすく整えています。

シェフについて

料理を手がけるのは、梅達郎シェフと八木恵介シェフを中心とするチームです。

二人はスペインやバルセロナのミシュラン星付きレストランで経験を積みました。その技術をそのまま持ち込むのではなく、金沢の文化や食材に合わせて使っています。

一人の名前を強く押し出すより、キッチンとサービスが一体となってコースを完成させるスタイルです。

食材を先に見せる。調理の背景を短く説明する。完成した料理を出す。その流れが自然で、演出だけが先に立つこともありません。

この日の料理

最初は、いちじくを使った冷たい一皿と、黒い球体のフィンガーフードから始まります。

いちじくの甘味と酸味を、なめらかなソースが受け止めます。果物をデザートではなく、コースの入口に使う組み立てが面白い。

続く一口は、見た目から中身を想像しにくい仕立て。先ほどの冷たい一皿とは、温度も食感も変わります。

甘海老

コースの始まりは、開業時から続くスペシャリテの甘海老です。

甘海老をそのまま出すのではなく、琥珀色の球体に再構成しています。口に入れると表面がほどけ、甘海老の甘味と香りが一気に広がります。

小さな一口ですが、味には厚みがあります。これから始まるコースの方向を、最初の一皿で明確に示しています。

合わせていただいた白は、バルセロナ近郊のサン・ジョアン・デ・メディオナで造られる「Tayaimgut Sauvignon Blanc 2018」。ソーヴィニヨン・ブランの爽やかさだけではなく、熟成による厚みも感じます。甘海老や牡蠣の旨味を受け止めながら、後味をきれいに整えてくれました。

牡蠣

牡蠣のエキスを閉じ込めた牡蠣ボール。上には自家製の生ハムを合わせています。

一皿目は牡蠣の旨味を抽出して見せ、二皿目は食感を残して味わわせる。同じ素材を続けながら、印象は重なりません。

牡蠣の濃さに塩味と酸味を加え、後味は軽く整えています。素材と技術の両方が分かりやすい構成でした。

舞茸

大きな舞茸を客席で見せてから、料理に仕上げます。

先に素材の姿を見ることで、皿の中にある香りや食感の由来がよく分かります。

舞茸らしい香りと歯触りを残しながら、ソースで味に厚みを加えています。秋の素材を正面から扱った料理でした。

あおりいか・蕪

あおりいかと蕪を、白を基調とした一皿にまとめています。

あおりいかの甘味と、蕪の穏やかな風味。やわらかな食感の中に、二つの素材の違いが残ります。

魚介と野菜のどちらかを強く見せるのではなく、同じ温度と口当たりの中で一つにまとめた料理です。

自家製パン

酵母にこだわった自家製パン。

酵母の香りがあり、外側は香ばしく、中はしっとり。料理のソースを最後まで味わうためのパンですが、単体でも十分に楽しめました。

かぼちゃ・もち麦

かぼちゃの甘味に、もち麦の食感を加えています。

かぼちゃだけでは味も食感も単調になりやすいところを、もち麦の粒感と香ばしさで変化をつけています。

季節感はしっかりありますが、甘さや重さは残りません。魚料理へつなぐ役割も果たしていました。

シロソイ

シロソイは、皮目を香ばしく焼き上げています。

身はしっとりとしており、皮の香ばしさとの違いがはっきりしています。

付け合わせやソースは魚の味を覆わず、シロソイの脂と甘味を引き出しています。素材の持ち味を残した、素直においしい魚料理でした。

鹿

鹿はきれいな赤身を残した火入れ。

肉質はやわらかく、鹿らしい旨味があります。ソースには深さがありますが、味を重くしすぎていません。

付け合わせも必要な量に抑えられています。皿を飾るためではなく、鹿の味を補うために置かれていることが分かります。

赤は、ティボー・リジェ・ベレールの「Moulin-à-Vent Les Rouchaux 2018」。

ガメイらしい果実味がありながら、味わいは落ち着いています。鹿肉に負けることはなく、肉の赤身やソースを重くしすぎない組み合わせでした。

ワインをスペイン産だけに限定していない点も、この店らしい選び方です。料理と同じく、スペインを軸に置きながら、その枠には収めていません。

加能蟹のパエリア

食事は加能蟹を使ったパエリア。

蓋を開けた瞬間に、蟹と米の香りが立ちます。米には蟹の旨味が入り、粒の食感も残っています。

石川県のズワイガニ漁が解禁されてからすぐの訪問。旬を迎えたばかりの加能蟹を、スペイン料理のパエリアで味わう。この店が金沢にある意味を、最も分かりやすく感じた一皿でした。

能登の冬を代表する食材を、スペイン料理の形で見せる。respiraciónらしさが最も分かりやすく表れた一皿でした。

柚子

柚子を器に見立てたデザート。

香りと酸味を中心にした、冷たく軽い仕上がり。鹿と加能蟹の後に、口の中をきれいに整えてくれます。

果実の形を生かした盛り付けにも、自然との距離を近く見せる店の考えが表れています。

能登杉

シグニチャーの能登杉のデザート。

杉のエキスを使い、甘味の中に木の香りを重ねています。

前回の夏にも登場した一品ですが、その前に続く料理が変わると、受け取る印象も変わります。今回は舞茸や鹿、加能蟹の後だけに、晩秋の山や森とのつながりを強く感じました。

お茶と小菓子

食後は、フレッシュハーブをポットに入れ、テーブルで抽出します。

小菓子は、木の実や落ち葉を思わせる盛り付けです。

一つずつ味と食感が異なり、見た目だけの演出ではありません。能登杉からハーブティー、小菓子までがつながり、食後もコースが続いているような構成でした。。

小菓子は木の実や落ち葉を思わせる盛り付け。能登杉の香りとつながる構成で、食後まで能登の自然を意識させます。

Yummies View

5.0 / 5

夏に続く二度目の訪問で、この店は季節を変えて訪れる面白さがあると分かりました。

甘海老で始まり、能登杉で締める。この基本の形は変わりません。その間に入る料理が、石川の旬に合わせて大きく変わります。

今回、特に印象に残ったのは牡蠣と加能蟹のパエリアです。

牡蠣は、エキスを球体にした一皿と、素材そのものを味わう一皿を続けて提供。同じ食材を異なる角度から見せていました。

加能蟹は漁の解禁直後。その旬を逃さず、店の土台であるスペイン料理につなげています。

技術や演出は多く使われていますが、最後に残るのは食材の味です。地元の食材を使うだけではなく、なぜ金沢でこの料理を出すのかが、コース全体から伝わってきます。

この店を目的に金沢へ行く。その価値があるレストランです。