麻布十番の「天ぷら 前平」を訪問しました。
店主の前平達也氏は、御茶ノ水の山の上ホテル出身。天ぷらの名門で技術を磨き、独立した料理人です。
薄い衣で素材の持ち味を引き出す山の上ホテルの天ぷら。その流れを受け継ぎながらも、前平氏には独自の考えがあります。
今回、料理の合間に大将と話す機会がありました。特に興味深かったのは、雲丹の揚げ方と、天ぷらを「蒸し料理」と捉えるかどうかについての話です。
料理だけでなく、天ぷらに対する職人の考え方にも触れることができた訪問でした。
お店について
麻布十番の静かな路地に店を構える「天ぷら 前平」。
白木のカウンターを中心とした店内は、余計な装飾のない落ち着いた空間です。
カウンター越しに大将の仕事を見ることができ、食材を油に入れるタイミングや、揚がった天ぷらを取り出す所作まで自然と目が向きます。
料理は季節のおまかせコース。この日は28,600円のコースをいただきました。
魚介だけでなく、そら豆、絹さや、ふきのとう、筍など、季節の野菜も充実した内容でした。

店主について
前平達也氏は、天ぷらの名門として知られる山の上ホテルで修業を重ねた料理人です。
山の上ホテルの天ぷらといえば、素材の味を生かした薄衣の天ぷら。特に野菜の扱いに定評があり、天ぷら近藤の近藤文夫氏も同ホテルの出身として知られています。
前平氏の天ぷらにも、その技術が感じられます。ただ、今回の訪問で印象に残ったのは、前平氏が必ずしも先人と同じ考え方をしているわけではないことです。
料理の仕上がりについて明確な考えを持ち、それを自分の言葉で説明してくれます。特に天ぷらと水分の関係についての話は興味深く、同じ山の上ホテル出身でも、料理人によって捉え方が異なることを知りました。
この日の料理

子持ちいかと春菊

天ぷら

白魚
白魚は繊細な身を薄い衣で包み、そら豆は季節らしい甘みを楽しみます。序盤から衣の軽さが印象に残ります。

そら豆

海老


マッシュルーム


キス
キスは水分を残しながら、衣は軽く仕上げています。

銀杏餅
銀杏餅は塩でいただきます。

帆立
衣と中の食感の違いを楽しめる仕上がりでした。だいだいでいただきます。

絹さや
絹さやを重ね、紫蘇で巻いて揚げたもの。断面も美しく、絹さやの食感に紫蘇の香りが加わります。山の上ホテルの系譜を感じさせる、印象に残った一品でした。

甘鯛
鱗は香ばしく立ち上がり、身には水分がしっかり残っています。

ふきのとう
ふきのとうは独特の苦味と香りがあり、春を感じさせる食材です。こうした山菜が入ることで、コースにも変化が生まれます。

雲丹
雲丹を紫蘇で包んで揚げた天ぷら。外側は軽く揚がり、中の雲丹はレアな状態。雲丹の柔らかな食感と甘みが残っています。
どうすれば、このように中をレアに仕上げられるのか。気になって大将に質問してみました。紫蘇で包むのは、雲丹が油の中で転がらないようにするためだそうです。ただし、油に入れる向きが悪いと、火を入れたくない部分が下になり、そこだけ加熱が進んで硬くなってしまうとのこと。仕上がりを左右するのは、油に入れる瞬間の判断。
何気なくいただいている天ぷらにも、細かな技術があることを知りました。


筍

蛤
蛤は海苔で巻き、芽ねぎを合わせた一品。蛤の旨味に海苔の香りが重なります。

穴子丼
締めは穴子丼。穴子に牛蒡の天ぷらとあさつきを合わせています。

デザート

Yummies View
## Yummies View
今回の訪問で印象に残ったのは、天ぷらの軽さと、食材ごとの水分の扱いでした。
甘鯛は鱗の香ばしさと身の瑞々しさ。雲丹は外側を軽く揚げながら、中はレアな仕上がり。絹さやは重ねることで食感を生み、紫蘇の香りを加えています。
素材によって揚げ方を変え、それぞれの持ち味を引き出していることが伝わってきます。
今回は大将と天ぷらについてお話しできたことも、大きな収穫でした。
特に興味深かったのは、「天ぷらは蒸し料理なのか」という話です。
同じ山の上ホテル出身の近藤文夫氏が天ぷらを蒸し料理と捉えるのに対し、前平氏は必ずしもそう考えていません。食材によっては水分を適切に抜くことが、旨味や食感を引き出すことにつながるという考え方です。
どちらが正しいという話ではなく、同じ名門で修業した料理人でも、天ぷらに対する解釈が異なるところが面白いと感じました。
雲丹の揚げ方についても、油に入れる瞬間の細かな技術を教えていただきました。何気なく口にしている一品にも、職人の経験と判断が詰まっています。
前平氏の天ぷらには、山の上ホテルで培った技術がしっかりと根付いています。一方で、その技術をただ踏襲するのではなく、自分なりの考えで磨き上げていることが、今回の会話からよく分かりました。
料理の完成度はもちろんですが、その背景にある職人の考え方まで知ることができたのは、カウンターでいただく天ぷらならではの楽しさです。
山の上ホテルの系譜を受け継ぎながら、自分の天ぷらを追求する前平氏。料理にも、その考え方にも惹かれる訪問となりました。






