神戸を代表するステーキハウスの一つ、「麤皮(あらがわ)」を訪れました。

1956年創業。半世紀を大きく超えて、神戸の地で極上のステーキを焼き続けてきた名店です。

この日は神戸でのゴルフに合わせての訪問。

名物の炉窯炭焼ステーキはもちろんのこと、クラシックで重厚なダイニング、端正に組み立てられたコース、そして付かず離れずの温かいもてなし。そのすべてに、この店が時代を超えて愛され続けてきた確かな理由を感じました。

お店について

麤皮は、神戸・三宮の東門街で産声を上げました。

1962年には、創業者自らが設計を手掛けた現在の店舗(中山手通)へと移転しています。

店内に入ると、控えめで落ち着いた照明が客席を包み込みます。

近年増えているミニマルやモダンを追求したファインダイニングとは一線を画す、良き時代のステーキハウスの重厚な空気がそのまま息づいています。

華美に飾るのではなく、洗練された調度品やテーブルセッティング、そしてスタッフの一挙手一投足に至るまで見事な統一感があります。長い歴史の中で研ぎ澄まされてきた、老舗ならではの美しい「型」がそこにあります。

麤皮 お店について
麤皮 お店について
麤皮 お店について
麤皮 お店について

シェフについて

麤皮の料理哲学を語る上で欠かせないのが、創業者の山田二郎氏です。

大学卒業後は建設会社に勤務する傍ら、夜は「神戸外国人クラブ」で腕を磨き、料理の技術と高い語学力を身につけました。

店を軌道に乗せた後も探求心を緩めず、50歳を迎えた1981年にはニューヨーク・マンハッタンに店を開業。その後はパリを中心に欧州の名店を巡り、肉のクオリティのみならず、野菜、デザート、サービスに至るまで、レストランとしての最高峰の完成度を追求し続けました。

そうして山田氏が昇華させたのが、「肉に金串を打ち、姥目樫(ウバメガシ)の最高級備長炭を使った炉窯で一気に焼き上げる」という独自のスタイルです。この火入れの技は、今や「Aragawa Style」として世界的に知られています。

現在は二代目当主がその歴史と炉窯炭焼の真髄をしっかりと継承し、現代の麤皮へとつないでいます。

この日の料理

今回はあらかじめコースを予約して訪問。

最初のアミューズから始まり、旬の食材を生かした選べる前菜やサラダ、そして主役の炉窯炭焼ステーキ、食後のデザートへと続く構成です。すべてのメニューが画一的に決まっているのではなく、途中に魅力的な選択肢が用意されている点も、クラシックなレストランらしい歓びを感じさせてくれます。

燻製したカブリ

最初の一口は、リブロースの外側にあたる「カブリ」の燻製。

赤身ならではの深い旨味と豊かな脂のコクを持つ部位です。そこに心地よい燻香をふんわりと重ねています。香りが主張しすぎることはなく、肉本来のポテンシャルを際立たせる見事な塩梅。シンプルながら、素材至上主義である麤皮のスタンスが明確に伝わる素晴らしいスタートです。

麤皮 燻製したカブリ

キャビアを添えたパスタ

選べる前菜からは、キャビアをあしらった贅沢なパスタを選択。

パスタの甘みとキャビアのクリアな塩味が絶妙なアクセントを生み出します。単なるステーキ屋にとどまらず、コース全体を完成度の高い料理で構成しようとするこだわりが伺えます。

麤皮 キャビアを添えたパスタ

シーザーサラダ

サラダはクラシックなシーザーサラダを。

チーズの深いコクとコクのあるドレッシングを感じさせつつも、決して重すぎません。メインの肉を迎える前に、口の中をリフレッシュさせる役割を完璧に果たしてくれます。

麤皮 シーザーサラダ

ワイン

メインに合わせていただいたのは、ドメーヌ・ミシェル・マニャンの「Bourgogne Côte-d’Or Graviers 2021」。

芳醇な果実味と豊かなふくらみを持ち、炭火の香ばしさをまとった但馬牛の旨味を優しく受け止めてくれる見事な相性でした。

麤皮 ワイン

炉窯炭焼ステーキ

そして、いよいよ主役の登場です。この日は但馬牛のシャトーブリアン(150g)をいただきました。

厚切りの肉の表面には、特製の炉窯と備長炭がもたらす均一で芳ばしい焼き色がしっかりと刻まれています。皿の中心に佇む肉の横には、じゃがいも、いんげん、にんじんのピューレが添えられた極めてシンプルな仕上がり。

ナイフを入れると、外側の香ばしいクリスピーな食感とは対照的に、断面には艶やかな美しい赤みが広がります。遠赤外線でじっくりと閉じ込められた但馬牛特有の上質な脂と赤身の旨味が、噛みしめるたびに溢れ出し、後から品のある炭の香りが鼻を抜けていきます。

余計なソースで味を飾るのではなく、「肉そのものの質」と「極限の火入れ」のみで勝負する純粋なステーキ。麤皮が半世紀以上にわたり最高峰と称され続けてきた理由が、この一皿に凝縮されています。

麤皮 炉窯炭焼ステーキ
麤皮 炉窯炭焼ステーキ

デザート

食事が終わると、彩り豊かなデザートを載せたワゴンがテーブルへと運ばれてきます。

好きなものを自由に選べるこのスタイリッシュな演出も、伝統ある老舗ならではのお楽しみです。

今回は濃厚なチーズケーキとコクのあるチョコレートケーキをチョイス。食後の余韻に浸りながらいただくコーヒーと小菓子まで、一切の隙がありません。前菜からデザートまで、一つのストーリーとして完璧に締めくくられます。

麤皮 デザート
麤皮 デザート
麤皮 デザート

Yummies View

麤皮の最大の魅力は、言わずもがな「炉窯炭焼ステーキ」の圧倒的なクオリティです。厚みのある但馬牛の表面を香ばしく焼き上げつつ、中心部には美しい赤みとジューシーさを残す火入れはまさに芸術的。ソースに頼らず、肉と炭の香りのみで食感と旨味を堪能させてくれます。

しかし、今回何より印象的だったのはステーキ単体の美味しさだけではありません。

クラシックな雰囲気漂う空間、選択の楽しさがあるコース構成、ワゴンから選ぶ食後のデセール、細やかなサービス。1956年の創業以来守り抜かれてきた「一軒のレストランとしての型と矜持」が、今もブレることなく息づいています。

トレンドに流されることなく、自分たちが磨き上げてきたスタイルを貫く。それこそが麤皮が誇る最大の価値であり、魅力です。次回神戸を訪れる際にも、必ず時間を作って再訪したい至高の一軒です。

Yummies Rating
4.5 / 5