南信州・飯田の日本料理店「柚木元」を訪れました。

山菜、川魚、野菜、羊、ジビエ。南信州の食材を中心に、土地の文化まで伝える料理を組み立てています。

料理を通して、その土地を知る。

柚木元は、その言葉がよく似合う店でした。

お店について

飯田駅近くにありながら、門をくぐると静かな空気に変わります。

雨上がりの庭は緑が濃く、畳の個室には自然光が柔らかく差し込みます。落ち着いて食事を楽しめる空間です。

料理の中心にあるのは南信州の食材です。

山菜やきのこ、川魚、ジビエを使い、この地域の季節を一つのコースで見せていきます。遠方から足を運ぶ意味が、料理を通して伝わってきます。

店主について

店主は萩原貴幸氏。

大学卒業後、滋賀の料亭「招福楼」で3年間修業しました。2005年に実家である柚木元へ入り、父のもとで経験を重ねます。2008年に代表へ就任しました。

萩原氏が大切にしているのは、南信州にある食材の魅力を料理で伝えることです。

有名な食材だけに頼りません。山菜、川魚、きのこ、ジビエなど、土地の日常にあるものを掘り下げます。生産者や採り手との距離が近いからこそ出せる料理があります。

郷土料理をそのまま再現するのではなく、日本料理として丁寧に整える。それでも土地らしさは失わせない。この加減が柚木元の個性になっています。

この日のおまかせ

こしあぶらの飯蒸し

最初は、春の山菜であるこしあぶらを使った飯蒸し。

温かなご飯に、こしあぶらの香りとほのかな苦味が重なります。材料も仕立てもシンプルです。その分、春の山菜の個性がまっすぐ伝わりました。

山菜八寸

うどのきんぴら、のびるの酢味噌、たらの芽の南蛮漬け、わらび、こごみ、稚鮎のサーディン風、いたどりの白和え。

南信州の春を一皿に集めた八寸です。

山菜は苦味や香り、歯触りがそれぞれ異なります。細かな調理の違いによって、単調にならずに食べ進められました。

稚鮎のサーディン風は、ほろ苦さと凝縮した旨味が印象に残ります。

ぎたろう軍鶏とふきの椀

澄んだ出汁に、ぎたろう軍鶏の旨味が静かに広がります。

胸肉と腿肉を使い、それぞれの食感の違いも楽しめます。ふきの苦味が加わり、輪郭のはっきりした椀でした。

柚木元名物 おやき

焼き目のついた皮は香ばしく、中には熱い汁がたっぷりと含まれています。

信州のおやきを踏まえながら、構造は小籠包を思わせます。郷土料理を現代の一品へと組み直した、柚木元を代表する料理です。

朝採れアスパラガス

炭火で軽く火を入れたアスパラガス。

みずみずしさを残しながら、表面には炭火の香りがあります。穂先と根元では甘味や食感が異なり、一本の中に変化がありました。

天然岩魚の柔らか煮

釣りの解禁を迎えたばかりの天然岩魚です。

厨房の料理人が自ら釣ったものを出していただきました。塩焼きではなく、柔らかく煮ています。

身は淡泊ですが、噛むほどに川魚らしい旨味が伝わります。骨まで無理なく食べられる、穏やかな仕立てでした。

焼き筍

筍は一度茹で、出汁を含ませてから焼き上げています。

表面には香ばしさがあり、中には出汁と筍の甘味が残ります。皮に近い部分まで味わえるのも、状態のよさがあってこそです。

国産羊の肩ロース

長野県の農家から仕入れた、流通量の少ない国産羊です。

火入れは均一で、中心にはしっとりとした水分が残ります。羊らしい旨味はありますが、香りに癖はありません。山葵を添えると、脂の甘味がより明確になりました。

トマトと山葵入りクリームチーズの最中

飯田で作られた最中の皮に、トマトと山葵入りのクリームチーズを挟んでいます。

最中の軽い食感に、トマトの酸味とクリームチーズの塩気がよく合います。山葵の香りが後から立ち、コースの流れを変える一品でした。

猪と熊、筍、花山椒のしゃぶしゃぶ

店主が客室で鍋を仕立てます。

猪と熊にはそれぞれ異なる香りと旨味がありますが、気になる臭みはありません。脂も重く残らず、口の中ですっとほどけます。

筍の食感と花山椒の鮮やかな香りが、力強いジビエを春の料理に整えていました。

アスパラご飯

アスパラガスの茹で汁で炊いた季節のご飯。

派手な味付けではありません。米の甘味の中に、アスパラガスの青い香りが自然に溶け込んでいます。

残ったご飯は、帰りの道中、お腹空くでしょうからとおにぎりにして持ち帰らせていただきました。

柚木元ローメン

伊那谷の郷土料理であるローメンを、柚木元らしく仕立てた一皿です。

羊肉と茹で麺に、すんき漬けを合わせています。羊の旨味、麺の食感、すんきの酸味がよく合います。

郷土料理の親しみやすさを残しながら、コースの締めとして収まりのよい味に整えていました。

甘味

氷餅で白餡とおたふく豆を包んだ菓子。

苺と山羊ミルクのアイス。

最後まで土地の素材が軸にあります。山羊ミルクの穏やかなコクと苺の酸味が心地よく、長いコースを軽やかに締めてくれました。

Yummies View

5.0 / 5

南信州の食材を使うだけではなく、なぜこの土地で食べるのかまで伝わる料理でした。

山菜、岩魚、筍、羊、熊、猪。個性の強い食材が続きますが、料理は過度に力強くありません。出汁や火入れを通して、それぞれの持ち味を丁寧に整えています。

名物のおやきやローメンには、郷土料理への敬意と新しい解釈があります。土地らしさを残したまま、一つのコースへ自然に組み込んでいる点も印象的でした。

料理の説明は細やかで、サービスにも温かさがあります。生産者や食材の背景を知ることで、一皿の見え方も変わります。

東京からのアクセスは決して便利ではありません。それでも、この場所まで足を運んで食べる価値があります。

春だけでなく、松茸やきのこが揃う秋にも訪れてみたい一軒です。