ずっと行きたかった恵比寿の「わさ」を初訪問。旧友に連れてきてもらいました。
以前よく伺っていた八雲のイタリアン「笠井」。その場所にかつて「わさ」があったと聞いて以来、ずっと気になっていた店です。
山下昌孝シェフは2009年に八雲で「わさ」を開業。その後、六本木を経て、2020年に現在の恵比寿へ移転しました。現在はわずか8席。厨房を囲むように客席を配した独特のスタイルです。
お店について
恵比寿駅から歩いて5分ほど。
店内に入って最初に目を引くのが、中央のオープンキッチンです。
客席は厨房をL字に囲むように配置されています。普通のカウンター中華とも違う。料理を待つというより、目の前で一皿ができていく過程まで楽しむ店です。実際に座ってみると、その意味がよくわかります。
シェフとの距離も近い。火を入れる。包む。盛り付ける。仕上げる。その一連の仕事が目の前で進みます。
まさにアリーナ席から観て、最後に自分で味わう料理エンタメでした。


シェフについて
わさのシェフは山下昌孝さん。学生時代に中国料理店でアルバイトしたことをきっかけに料理の道へ。岐阜の「開化亭」をはじめ複数の中国料理店で経験を積み、2009年に八雲で独立しました。
料理を見ていて感じるのは、創作性を前面に出すというより、知っている中国料理を徹底的に磨き込むタイプだということ。
餃子、よだれ牛、春巻き、焼売、フカヒレスープ、炒飯、麻婆豆腐、担々麺。名前だけなら誰もが知る料理が並びます。ところが、素材の扱い方や下処理、食感の作り方が細かい。特に担々麺は、もやしや白葱の処理にもかなり手間をかけていることが紹介されています。
派手な食材を並べるのではなく、馴染みのある中国料理をどこまで突き詰められるか。その方向性が「わさ」らしさなのだと思います。

この日いただいた料理

カラスミビーフン
コースのスタートは、わさの定番でもあるカラスミビーフン。
細いビーフンにカラスミをたっぷりと合わせ、海苔と一緒にいただきます。シンプルですが、カラスミの塩気と旨みがしっかり効いています。
最初の一皿から印象に残りました。

棒棒鶏
しっとりと火を入れた鶏に香味だれ。トマトと青菜を添えています。
たれはしっかりした味ですが、鶏の味を消してしまわない。香味と辛味のバランスがよく、王道の料理を丁寧に作っていることが伝わります。


搾菜

餃子
餃子は小ぶりで、皮は薄め。焼き目は香ばしく、中はジューシー。


焼売
焼売は肉の存在感を残した仕上がりです。


よだれ牛
牛肉は中心に赤みを残した火入れ。濃厚なたれを合わせていますが、肉の味が負けていません。中国料理らしい強さがありながら、重たくなりすぎない一皿でした。

春巻き
揚げたてを手でいただきます。薄い皮はパリッと軽い食感。すだちと調味料が添えられています。料理そのもののおいしさに加え、目の前で仕上がっていくところを見るのも楽しい。


蛍烏賊
春キャベツと蛍烏賊。キャベツの甘みと蛍烏賊の濃い旨みを合わせた、季節を感じる一皿でした。

フカヒレ白湯スープ
後半の中心になるのがフカヒレ。最初に白い皿でフカヒレと白湯スープを味わい、その後、土鍋で熱々の状態でも提供されます。白湯はかなり濃厚。それでも単に重たいのではなく、フカヒレを受け止めるだけの旨みがあります。


ふかひれはもう一品。ぐつぐつと煮立つ土鍋に入ったふかひれはとろけました。

炒飯

麻婆豆腐
赤い油が印象的な麻婆豆腐。豆腐は大きめに残し、挽肉、葱、香辛料をしっかり効かせています。コース終盤でも味の輪郭がはっきりしていて、白飯が欲しくなるタイプの麻婆豆腐でした。


担々麺
締めは担々麺。メニューには「熊野地鶏×比内地鶏×大山鶏」とあります。胡麻を効かせた濃厚なスープに肉味噌ともやし。かなり力のある一杯です。コースの最後に小さくまとめるのではなく、担々麺としてきちんと満足させる。この潔さも印象に残りました。

杏仁豆腐
最後は杏仁豆腐。見た目は驚くほどシンプルです。なめらかな質感と杏仁の香りで、味の強い後半を静かに締めてくれました。

Yummies View
「劇場型」という言葉が、ここまでしっくりくる店も珍しい。
料理そのものは餃子、春巻き、焼売、炒飯、麻婆豆腐、担々麺と、驚くほど馴染みのあるものが中心です。
それを下処理、火入れ、食感、温度まで細かく詰めていく。
奇抜なものを食べさせるのではなく、知っている料理を、知らなかった完成度で出す。
そして、その仕事を目の前で見せる。
料理を食べるだけでなく、作る過程まで含めて楽しませてもらいました。
帰りに次回の予約をお願いしたところ、なんと一年先。
それでも予約を入れて帰る。その理由がよくわかった気がしました。






