薪火を軸にしたイタリアンの代表格です。
料理、ワイン、器、空間を通じて、自然の生命力や季節の美しさを表現する。その考え方は、イタリア料理でありながら日本料理にも通じます。
お店について
TACUBOは、代官山と恵比寿の間にある住宅街に店を構えています。
扉を開けると、中央に薪火台を置いたオープンキッチンが現れます。客席はカウンター8席と個室2室。
この日は薪火台の真正面に案内されました。
火を扱う様子を間近で見られる特等席です。ただ、真夏にはかなり暑い。料理が進むにつれて、その熱が少しつらく感じられました。
カウンター奥には常連らしき団体客。会話が終始にぎやかで、料理に集中しにくかったのも残念でした。
料理の完成度が高いだけに、もう少し落ち着いた環境で味わいたかったというのが正直なところです。
シェフについて
オーナーシェフの田窪大祐氏は愛媛県出身。「アル・ソリト・ポスト」や「アロマフレスカ」で経験を積み、2007年に広尾で「リストランティーノ バルカ」を開きました。
2010年に恵比寿へ移転し、「アーリア ディ タクボ」に改称。2016年に現在の場所で「TACUBO」として再出発しました。
店を象徴するのが薪火です。強い香りをつけるだけではありません。素材の水分を保ちながら火を入れ、表面には香ばしさを加える。薪火を料理の技法として東京のイタリアンに定着させた一人です。
この日伺った話では、現在の田窪シェフは厨房には立たず、プロデュースに軸足を移しているとのこと。厨房は、田窪シェフの考えと技術を受け継いだチームが預かっています。
この日の料理
竹島さんのモッツァレラ
TACUBOの名刺代わりとなる一皿。
モッツァレラはやわらかく、ミルクのコクが素直に伝わります。グリーンのジュレが爽やかさを加え、コースの始まりを軽やかに整えます。
鮮魚のガスパチョ
ガスパチョの酸味と魚の旨みが自然に重なります。
鮮やかな色合いも夏らしく、食欲を引き出す一皿でした。
雲丹とカッペリーニのジェノベーゼ
細く束ねられた冷製カッペリーニに、雲丹をたっぷりと。
雲丹の甘みとバジルの香りがよく合います。濃厚でありながら重さはなく、夏のTACUBOを象徴するような完成度でした。
鮎と胡瓜のソース
薪火で焼いた鮎は、皮目が香ばしく、身はふっくら。
鮎のほろ苦さに、胡瓜とすだちの清涼感が重なります。青い器まで含めて、涼を感じさせる仕立てでした。
花ズッキーニとオマール海老のフリット
花ズッキーニの中には、オマール海老とリゾット。
口に運ぶと、熱と香り、海老の旨みが一気に広がります。衣は軽く、中は濃密。温度と食感の違いも楽しい一皿でした。
とうもろこしとジロール茸のタリオリーニ
とうもろこしのやさしい甘みを、ジロール茸の香りが引き締めます。
噛むほどに甘みと香りが広がる、滋味深いパスタです。
薪焼きの短角牛
芯まで均一に火が入り、赤身はしっとり。
薪火の香りと肉の力強い旨みが、はっきりと感じられます。添えられた茄子のやわらかな甘みも、肉によく合っていました。
柑橘のジュレとピクルス
肉料理の後の口直し。
柑橘の香りと酸味が口の中をすっきりと整えます。次のパスタへ自然につなぐ一品でした。
スペシャリテのボロネーゼ
期待していたTACUBOのスペシャリテ。
肉の濃密な旨みにチーズのコクが重なります。ソースとパスタの一体感も見事でした。
添えられた茄子は、ふわりとやわらかく、香ばしさと甘みがあります。ボロネーゼの力強さを受け止める、大切な脇役でした。
タダオゴールドとライムのグラニテ
黄桃「タダオゴールド」の豊かな甘みに、ライムのグラニテとジュレ。
熟した果実の甘みを冷たさと酸味が引き締めます。食後の余韻を軽やかに整えるデザートでした。
パッションフルーツとミルクプリン
パッションフルーツの鮮やかな酸味と、ミルクプリンのまろやかさ。
甘さだけで終わらず、最後まで輪郭のあるデザートでした。
フィナンシェとエスプレッソ
小菓子はフィナンシェ。
香ばしい焼き上がりを、エスプレッソとともに楽しみました。

料理の説明は短く、丁寧。
提供のテンポも心地よく、生産者や道具への敬意が言葉の端々から伝わってきました。
器を含めた料理の見せ方。薪火の力強さ。素材と技術のバランス。コース全体の完成度は高く、隙がありません。
それでも、「うわっ」と心を動かされるほどの驚きや高揚感には、なぜか届きませんでした。
期待が大きすぎたのかもしれません。
田窪シェフが厨房を離れても、TACUBOの考え方はチームに受け継がれています。ただ、その濃度がほんの少し薄まったように感じたのも事実です。
暑さと周囲のにぎやかさも、料理への集中を削いでしまいました。
次回は季節を変えて訪れたい。
今度は、もう少し涼しく静かな席で、薪火の料理と改めて向き合ってみたいと思います。