神楽坂の「TsunAgu」を再訪。

TsunAguは2026年4月、神楽坂にオープンした石かわグループが初めて手がけるイタリア料理店です。

公式サイトでは、日本の感性とイタリア料理の伝統が交差する店として紹介されています。

食材だけでなく、人と地域、食文化をひと皿を通してつなぐ。その考え方が店名にも表れています。

お店について

TsunAguがあるのは、神楽坂駅からほど近いNEO神楽坂。

同じ石かわグループの「波濤」「NK」「愚直に」も同じビルに入っています。

TsunAguはこのビルの4階。

エレベーターを降りると、まず小さなラウンジがあります。その先にカウンターを中心としたダイニングが続きます。

入口から客席までを一気に見せない導線も印象的です。

木や石を基調とした空間には、イタリアンでありながら和の静けさがあります。

照明も控えめ。

料理を待つ時間まで含めて、石かわグループらしい世界観が丁寧に表現されています。

個室もあり、会食にも使いやすい店です。

シェフについて

TsunAguを率いるのは、イタリアのタオルミーナやピエモンテといった星付きレストランで研鑽を積んだ関俊仁シェフ。

関シェフ

帰国後は京都で自身の店を開業。その後は長野県白馬村の「Snow Peak LAND STATION HAKUBA」内にある「Restaurant 雪峰」でシェフを務めました。

2025年に石かわグループへ。

イタリア料理を長く経験してきた関シェフと、日本料理を軸としてきた石かわグループ。

TsunAguのおもしろさは、この組み合わせにあります。

料理の軸はあくまでイタリアン。

一方で、食材の選び方や季節の見せ方には、日本料理に近い感覚があります。

日本の食材をイタリア料理に置き換えるだけではない。

イタリアで学んだ料理をそのまま東京で再現するわけでもない。

その間にあるTsunAguなりの料理を、今まさにつくっているように感じます。

この日の料理

今回は、とうもろこし、茄子、すだち、茶豆、ズッキーニなど夏の食材が中心でした。

季節感はかなり日本的です。

一方で、料理の組み立てはしっかりイタリアン。

素材をまっすぐ見せる皿と、ソースや構成で華やかに見せる皿が交互に出てきます。

白馬のとうもろこし

ゴールドラッシュとホワイトコーンを使った一皿。

とうもろこしの強い甘みに、ホワイトビネガーの酸味を合わせています。

最初から心を掴まれました。

とうもろこしは甘さを前に出すだけでも十分おいしい食材です。

そこに酸を入れることで、甘さの輪郭がはっきりします。

シンプルですが、この日のコースの方向を示すようなスタートでした。

宮城県産スズキのフリット

宮城県産のスズキを軽い衣でフリットに。

ピスタチオのペーストと、すだちを合わせています。

それぞれの要素は分かるのですが、この一皿で何を一番前に出したいのかは少し掴みにくく感じました。

素材を重ねるほど、料理の焦点をどこに置くかが難しくなります。

もう少し軸が明確になると、印象が大きく変わりそうな一皿です。

オマール海老のラビオリ

オマール海老のラビオリ。

ここでコースの表情が一気に華やかになります。

オマール海老の頭から取ったオイルを使い、甲殻類の旨味を凝縮。

ラビオリとソースを一緒に口に入れると、小さな一皿ながら味にはしっかり厚みがあります。

イタリア料理を食べているという満足感が、素直に伝わってくる料理でした。

マナガツオのカルパッチョ

マナガツオには茄子とすだちのジュレでカルパッチョに。

マナガツオのカルパッチョ

脂のある魚に、茄子のやわらかな味とすだちの酸味を合わせています。

マナガツオの旨味を残しながら、後味は軽い。

夏らしい仕立てです。

水牛のモッツァレラ

水牛のモッツァレラにカボチャ。

水牛のミルクのコクと、カボチャの甘さをシンプルに合わせています。

自家製のバーニャカウダソースも添えられ、途中から合わせていただきました。

素材は親しみやすい組み合わせ。

ソースを加えることで、途中から味の表情が変わります。

岩手県産ほろほろ鳥溶岩グリル

岩手県産のほろほろ鳥は溶岩でグリル。

表面は香ばしく、中には肉の旨味が残っています。

合わせるのは粒マスタード。

ここでは余計なものを足さず、肉そのものを楽しませます。

華やかな料理だけでコースを組まないのも、TsunAguらしいところです。

黒毛和牛ランプとサーロイン

黒毛和牛はランプとサーロイン。

二つの部位を並べて食べることで、赤身の旨味と脂の入り方の違いがよく分かります。

ロメインレタスとポルチーニを添えた構成でした。

味とは別に、少し気になったのが肉のカットと盛り付け。

少しビストロ的にも見えるプレゼンテーションで、ここまでのコースから受ける印象とは差がありました。

夏野菜のリゾット

リゾットには真鯛、茶豆、黄色いズッキーニ。

米を中心に、魚と夏野菜が自然にまとまっています。

茶豆の風味とズッキーニのやさしい甘さ。

そこに真鯛の旨味が加わります。

季節感はありながら、味は落ち着いています。

この後に続くパスタ三連奏へのつなぎとしても、きれいな一皿でした。

名物のパスタ三連奏

ここからTsunAguの名物ともいえるパスタ三連奏。

一つのコースでパスタを三皿続ける。

普通なら少し重くなりそうですが、形、温度、ソースを変えることで、それぞれ別の料理として楽しませます。

今回、この三皿に関シェフのイタリア料理への考え方がよく表れているように感じました。

サマートリュフ

一品目はサマートリュフ。

サマートリュフ

マルケ州のスタイルをベースにしたパスタです。

卵を使ったパスタに、サマートリュフをたっぷりと。

構成はかなり潔い。

口に入れる前からトリュフの香りが立ち、その香りを卵のパスタが受け止めます。

華やかですが、余計な要素は足していません。

鮑の冷製カッペリーニ

二品目は鮑の冷製カッペリーニ。

鮑の冷製カッペリーニ

冷たいガラスの器で出てきます。

細いカッペリーニと鮑。

一皿目とは温度も食感もまったく違います。

コースも終盤ですが、冷製にすることで重さを感じません。

見た目にも涼しく、夏のTsunAguらしいパスタです。

じゃがいもとポルチーニ

三品目は、じゃがいもとポルチーニ。

シチリア地方の昔ながらの料理をベースにしているそうです。

三皿の中では、一番素朴に見える料理です。

食べてみると、その素朴さがおもしろい。

じゃがいものやさしい甘さ。

そこにポルチーニの香り。

華やかなサマートリュフから始まり、鮑の冷製パスタを挟み、最後は土地に根付いた素朴な味へ戻ってくる。

この流れが印象に残りました。

高級な食材や複雑なソースだけがイタリア料理ではありません。

土地に根付いた、飾らない料理にもイタリア料理のおいしさがある。

三皿を続けて食べることで、その幅を見せてもらったように思います。

デザート

最後はアイスにスイカのジュレ。食感の違いを楽しむデザート。

長いコースの最後なので、重たさを残さない仕立てです。

この日はバースデープレートも用意していただきました。

バースデープレート

店名の「TsunAgu」を、料理以外のところでも感じた瞬間でした。

前回訪問時、誕生日が近いという話をしたのを覚えていてくださったようです。

サービスを担当するのは、ソムリエ兼サービスマネージャーの坂部宏行氏。

もともと俳優だったというユニークな経歴を持ち、その後飲食の世界へ。

銀座のレストランを経て石かわグループに入り、「神楽坂 石かわ」でも長くサービスを担当されていました。

TsunAguでは決められたワインペアリングを置いていません。

料理に一杯ずつ機械的に合わせるのではなく、その日の料理や客の好みに合わせて選んでいく。

坂部氏と話しながらワインを選ぶ時間も、この店の楽しみの一つです。

Yummies View

4.0 / 5

二度目の訪問で、TsunAguという店の輪郭はかなり見えてきました。

日本の旬を使いながら、料理の軸はしっかりイタリアに置く。サマートリュフのような華やかな料理がある一方で、じゃがいもとポルチーニのような素朴な料理もあります。この幅がTsunAguのおもしろさです。

評価の理由は、完成度が低いからではありません。むしろ、これからさらに良くなる余地を感じたからです。

スズキのフリットでは、どの要素を主役にするのか。牛肉では、味だけでなくカットや盛り付けをどう見せるのか。料理そのものは良くても、少し整理されることで印象が大きく変わりそうな皿がありました。

2026年4月に始まったばかりの店です。

関シェフが積み上げてきたイタリア料理と、石かわグループが大切にしてきた日本の季節感や素材への向き合い方。その二つが、今まさに混ざり始めています。

すでに十分に魅力があります。

だからこそ、今の完成度を評価しながら、次にどこまで進むのかを見てみたい。今回は、その期待も含めて評価としました。