千葉県佐倉市の「PRESENTE Sugi」を訪れました。
杉岡憲敏シェフが、千葉の海、山、川で得た食材を中心にコースを組み立てるレストランです。
ジャンルはイタリア料理です。ただし、一般的なイタリアンを想像して行くと驚きます。
減圧調理や低温調理を使い、食材の状態を細かく変えます。器や料理の見せ方も含め、杉岡シェフの研究を順番に体験していくようなコースでした。
PRESENTE Sugiは、The Tabelog Award 2026で「Best Regional Restaurants」に選ばれています。料理を通して、その土地の風土や文化を味わえる店に贈られる賞です。
お店について
場所は千葉県佐倉市白銀。
住宅街に建つ一軒家のレストランです。白い建物の前に、流木で作られた「PRESENTE SUGI」の看板があります。

JR佐倉駅からは歩いて20分ほど。専用駐車場もあります。都心からは距離がありますが、この店を目的地にして出かける場所です。
店内はテーブル席が中心です。
テーブルには、流木や植物を使った装飾が置かれています。飾りに見える木から、途中で小菓子を摘み取る仕掛けもありました。
メニュー表も一般的な縦書きの一覧ではありません。
料理名が円や三角形の中に配置され、どの順番で出てくるのかは分からないようになっています。食事が進むにつれ、図の意味が少しずつ見えてきます。
ランチとディナーは一斉スタートです。品数が多く、シェフの説明を聞きながら進みます。時間には余裕を持って訪れた方がよい店です。
シェフについて
杉岡憲敏シェフは1980年、千葉県生まれ。

佐倉の「リストランテ カステッロ」や、東京・護国寺の「タベルナ・アイ」などで経験を積みました。2016年にPRESENTE Sugiを開いています。
公式サイトによると、使う食材はほぼ千葉県産です。県内の漁港で揚がる魚、利根川の淡水魚、八千代黒牛などを扱います。
杉岡シェフ自身が海や山へ入り、魚を釣り、きのこや野草を採ることもあります。
料理はシェフが自ら説明します。
食材をどこで見つけたのか。どのように処理したのか。なぜこの器を使うのか。完成した料理だけではなく、そこに至るまでの話が続きます。
料理、器、店内の設えを別々に考えていないことがよく分かります。
この日の料理
この日は「Sugiコース」をいただきました。
メニューには、定点トマト飴、千葉の魅力、信玄餅!?、GV鰹、杉寿司、WILD・B・B・Q、Sugi畑、本日のパスタなどが記されていました。
料理名だけでは内容が分からないものが多く、実際の一皿を見て初めて意味が分かります。

地球
最初は「地球」。

千葉県九十九里の菅原工芸硝子による青いグラスです。バタフライピーを使った氷に水を注ぐと、青い色がゆっくり広がります。
飲み物というより、これから始まるコースの導入です。
定点トマト飴
杉岡シェフからの最初の贈り物は、店の定番であるトマト飴。

トマトを薄い飴で包み、塩とゼラニウムを添えています。
飴の甘さに、トマトの酸味と塩味が重なります。見た目はかわいらしいのですが、味はきちんと食事の始まりに向いています。
サワラの生ハム(メニュー外)
杉岡シェフが釣り上げたサワラを塩漬けにし、生ハムのように仕立てています。
水分が抜けた身は、しっとりとした食感です。生魚とも焼き魚とも違い、サワラの旨味と塩気が凝縮されていサワラ
大根のピクルスの酸味と、燻製したヨーグルトの香りが加わり、後味は重くありません。
乾燥させたサワラの頭とルアーを使った盛り付けには驚きますが、料理そのものは繊細にまとまっていました。

大地の恵み
牛乳を固めた透明感のある一品に、日本ミツバチの蜂蜜を合わせます。
見た目から味を想像しにくい料理です。口に入れると、牛乳と蜂蜜という分かりやすい組み合わせに戻ります。
複雑に見せながら、中心の味は素直でした。

千葉の魅力
房総の伊勢海老を使った料理です。
伊勢海老は塩麹で寝かせ、海老味噌のソースを薄いシートにして重ねています。
チバニアンの地層を思わせる器には、ピーナッツの殻や炭なども使われているそうです。千葉というテーマを、食材だけでなく器にも広げています。

信玄餅!?
フレンチトーストに、フォアグラのパウダーをかけています。
黒蜜に見えるのは、桑の実とヤマモモを使ったソースです。和菓子の信玄餅を思わせる見た目ですが、甘味とフォアグラのコクを組み合わせた料理でした。
見た目と味のずれを楽しませる、PRESENTE Sugiらしい一皿です。

楽しみな給食
給食の揚げパンを思わせる料理です。
黒胡麻、黒豆、焙煎したピーナッツをまぶしたパイが、紙袋に入って出てきます。セミの幼虫を乾燥させ、ローストしたものも加えられています。
味や食感は軽く整えられていますが、昆虫を使う発想も含め、この店の世界観が自分に合うかどうかを感じる一皿でした。

魅力
カリフラワーのゆで汁をゼリー状にし、カリフラワーを包んでいます。
カリフラワーという身近な食材を、見慣れない質感に変えた料理です。淡い味わいの中に、カリフラワーの甘さが残ります。

スズキの生ハム(メニュー外)
杉岡シェフが東京湾で釣ったスズキを、生ハムのように仕立てています。
かぼちゃのペースト、チーズ、千葉県産トマトのゼリーを合わせ、キャビアのN25を添えています。
スズキを釣る場面まで再現した盛り付けです。食材は多いものの、魚の旨味はきちんと残っていました。

発鱇
夏のあんこうに、発酵させたアスパラとズッキーニを合わせます。
あんこうは冬の魚という印象がありますが、夏は身に栄養を蓄えているとの説明でした。
フリットにした身は弾力があり、発酵の香りが淡白な味に変化を加えます。

カラスミのお寿司
赤い器に、少量の酢飯とカラスミを合わせた一品です。
カラスミの塩気と香りを、米が受け止めます。見た目はシンプルですが、コースの中では味の輪郭がはっきりしていました。


GV鰹
千葉の鰹を使い、赤一色で仕上げた料理です。
フランボワーズ、ビーツ、八千代牛乳から作ったヨーグルトを合わせています。
鰹を花のように見せる盛り付けです。鰹の力強い味に、果実の酸味とヨーグルトの柔らかさを加えています。

杉寿司 Type-R
鯖にゴルゴンゾーラを合わせ、富津の海苔で巻いた杉寿司です。
鯖と青かびチーズはどちらも香りが強い食材です。海苔が二つをまとめ、口に入れると不思議な一体感が生まれます。
寿司の形を借りていますが、味の組み立てはイタリア料理です。

スギの実
テーブルに置かれた白い木から、紫色の実を摘み取ります。
中身は果物を固めたパート・ド・フリュイ。料理の合間に口を整える役割もありました。
最初から置かれていた装飾が、コースの一部だったことがここで分かります。

トラフグのフラン
トラフグをなめらかなフランに仕立てた一皿です。
柔らかな質感の中に河豚の旨味を集めています。見た目は穏やかですが、味には厚みがありました。

スズキと味噌のなめろう
スズキを味噌でまとめ、なめろうに仕立てています。
イタリア料理の流れの中に、千葉の漁師料理を思わせる味が入ります。複雑な料理が続く中で、魚と味噌の組み合わせは分かりやすく感じました。

立方体
きれいな立方体に焼いたパンです。
外側はしっかり焼き込み、中は柔らかく仕上げています。添えられたいちじくのクリームをつけていただきました。
パンも単なる付け合わせではなく、形と食べ方まで一つの料理として組み立てています。

WILD・B・B・Q
メインは八千代黒牛のシャトーブリアン。
薪で焼いた肉に、千葉で採れたきのこや野草を合わせています。
コースの中では比較的分かりやすい料理です。牛肉の火入れは均一で、赤身の旨味を素直に味わえました。
この日は、クレソン、ヨモギ、セリ、ノビル、タンポポ、ノカンゾウなどの野草も見せていただきました。食材を見てから料理を食べると、それぞれの香りを捉えやすくなります。

杉寿司 Type-S
もう一つの杉寿司は、金目鯛を使ったType-S。
海苔とトリュフの皮を赤ワインで煮た佃煮を添えています。
見た目は握り寿司ですが、口に入れると卵かけご飯を思わせる味に変化します。日本料理とイタリア料理の境界を意識させる一品でした。

Sugi畑をお皿に乗せて
野菜、野草、エディブルフラワーを一列に並べた料理です。
バニラとライムを使った冷たいドレッシングや、口の中で弾けるキャンディーを合わせます。
多くの要素を使っていますが、中心にあるのは千葉の植物です。味だけでなく、香りや食感の違いを順番に楽しみます。


本日のパスタ
この日のパスタは、モクズガニと発酵させたズッキーニを使ったジェノベーゼ。
パスタを巣のような形にまとめ、バジルの香りを加えています。
見た目はデザートにも見えますが、蟹の旨味を軸にしたパスタです。コース終盤でも重くなりすぎない量に抑えられていました。

エアーアイスと小菓子
終盤には、きのこと八千代のヨーグルトを使った軽いアイスが登場します。
甘さを強くせず、きのこの香りを残した仕上がりです。
最後まで、食材と見た目の組み合わせを簡単には予想させません。小菓子と食後の飲み物まで、杉岡シェフの考えが続きました。


PRESENTE Sugiは、料理だけを静かに食べる店ではありません。
シェフの説明、特注の器、メニューの図形、食材の実物、テーブルの装飾まで、すべてがコースに組み込まれています。
千葉の食材を自ら集め、調理法を考え、器まで作り込む。佐倉で店を続ける理由が、コース全体から伝わりました。
こうした世界観が好きな人には、深くハマる店だと思います。
一方で、私は料理の味や流れをもう少しシンプルに楽しみたいタイプです。演出や説明の比重がやや大きく感じられ、そこまで強くハマることはありませんでした。
食事は約3時間半。品数の多さを考えれば理解できますが、私には少し長く感じました。
技術や手間、千葉の食材への向き合い方はよく分かります。食事に何を求めるかで、評価が大きく分かれるレストランだと思います。